裁判員裁判5年を迎えて【寄稿】 平成26年5月25日(日)山陽新聞朝刊総合5面
【寄稿】 被告人にも選択の道を
裁判員裁判の弁護経験が豊富な的場真介弁護士(59)=元岡山弁護士会長
裁判員裁判が始まって5年。今年3月末までに全国で6千人を超える被告人が裁判員裁判で裁かれた。そして多くの法曹がこの制度を経験し習熟してきた。もはや特殊な裁判ではなく、標準である。
開始当初と現在では実務の運用は大きく変化した。多くの人々の工夫と努力で、この制度も洗練され安定したものになりつつある。
私は、この制度に関して、どちらかというと好意的な印象を持っている。どの事件でも裁判員の方々は熱心に審理に取り組まれていた。みずみずしい感性で、共に怒り、共に泣いてくれる裁判員と一緒に仕事をすることにはやりがいを感じる。
主権者である国民が関与するようになったことは刑事司法の正当性を強化することにもつながったと思う。そして、素人の裁判員に対して分かりやすく説明する責任を課したこの制度は、日本の刑事裁判に新しい風を入れ、変化を強力に促すことになった。
私が見る限り裁判員が関与したために非常識な裁判が増えたということはない。性犯罪などで量刑が重くなる傾向が見られるが、それも耐えがたい欠陥とは思えない。少なくとも裁判員裁判よりかつての裁判官裁判の時代が良かったなどと感じたことは一度もない。
5年前、国民の関与を排除する裁判制度からの脱却は時代の要請であった。世界を見渡しても例がないような息苦しい制度になっていた。裁判官裁判が完全に行き詰まったからこそ、裁判員裁判に変わるしかなかったのであり、今さら回帰することはありえない。
もっとも欠点はある。この制度が多くの人々を動員し、膨大な時間とエネルギーを必要とする点だ。被告人への心理的負担も大きい。重大な事件であっても、事実に争いがない事件にまで重厚長大な裁判員裁判での審理を一律に強制するやり方は考えものだ。半面、重大犯罪でなくても否認事件については一般市民の健全な判断能力に期待し、被告人が裁判員裁判を選択できる道を開くべきだと思う。
裁判員裁判導入を契機に刑事裁判は大きく変わった。しかし、長期間にわたる被告人の身体拘束、いまだ残る調書への過度の依存など、改めていかなければならない課題も多く残っており、今後も制度をより良いものに変えていく努力が必要である。
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