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2013年9月25日 (水)

医師の努力の法律上の位置づけについて

Q
すみません。医療に関わる法律の事で一つ質問させてください。

医師法で医師は、 医療及び保健指導を掌ることによつて公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとする。と定められていますが、その手段について医師がしなければいけないこと。たとえば、教科書を読むとか、ガイドライン通りにするとか、そういうことは法律的にはどのように定められているのでしょうか?

たとえば、悪性黒色腫に対して生検をすると転移が増えるのでしてはいけないことは国家試験レベルの知識ですが、これを皮膚科医がやって実際に転移したとして、それは法律的にはどのように扱われるのでしょうか。

他にも聞いてみたいケースはいくつかあるのですが、
私が聞きたいのは
「教科書通りにする」事は医師の義務だと思うのです。なぜなら医師のすることには侵襲性がありますので。確かこれは法的な根拠もあったように記憶しているのです。倫理的な問題だけではなかったはずだと思うんですが、色々見ても根拠に探し当らず、一度ここで質問してみる次第です。

A
○医療過誤を扱う弁護士の視点から言わせてください。
○民事上の医療過誤かどうかを考えるときには、債務不履行と不法行為という法律構成があるのですが、一般的には債務不履行構成を軸にして考えていきます。医療機関と患者の間で締結された診療契約に照らして、医師等に債務不履行があったと言えるかどうかを検討していくことになります。
○弁護士は医学については素人ですが、何日か医学部の図書館にこもって、その疾病と治療法についての教科書と関連する論文を読みあさって当時の医学水準がどのような注意義務を当該医師に要求していたか、当該医師がこれを守らなかったことが原因となっていると言えるかどうかを探求します。
○参考になる判例も調査します。医療過誤判例はかなり集積されており、判例法を形成しています。質問者様のいわれる「教科書を読むとか、ガイドライン通りにするとか、そういうことは 法律的にはどのように定められているのでしょうか?」はおそらくこの判例法の中で示されていると思われます。
○医療過誤が認められた事例は、当該医師が「教科書に書いてあるようなこと」もできていないという場合が多いと思います。医療という行為は創造的・裁量的な領域が広いことや、一般の開業医に最先端の専門医の医療水準を求めるのは酷な場合があることに配慮して許容限度をある程度とって考えても、その医師の不勉強や技術の未熟や不注意があり、当該医療行為を行う医師に求められる医療水準を満たしていないと考えられる場合を医療過誤としていると思います。
○医学誌に公開されたガイドラインに明らかに違反したりすると、これは医療水準を満たしていないとされやすいのは仕方がないですね。
○合理的な根拠があるときは、現場の医師は、教科書に書いてある術式などに独創的な改変を加えることもあるだろうし、他に方法がない場合などには使用説明書を度外視した薬の使用もありうるのだろうと思います。ここぞという時に臨機応変にできるのがりっぱな医師だと思います。しかし、未熟な医師が同じことをやって失敗したときに同じように評価されるかは別問題です。その見極めがむつかしいところです。
○こういう教科書、ガイドライン、有名な論文に則って、治療しましたと説明できれば、医師の保身はできます。「患者を助けるために、こういう理由で、教科書やガイドラインと違う応用をしました。」という説明の負担は医師にとってリスキーな場合があります。
私は、普段はきっちりリスクコントロールができ、かつ、ここぞというときにはリスクを取って応用動作をすることをためらわない医師を尊敬しますね。

【補足】
お答えありがとうございます。
債務不履行であり、不法行為ではないと言うことはですね。
「医師がガイドライン等の教科書通りの治療に精通しておらず」、それによって「患者に不利益が生じた」としても、その患者に民事訴訟を起こされないかぎり、その責任は問われない、あるいは刑事訴訟はあり得ない、そういう理解でよろしいのでしょうか?

追加A
○債務不履行であり、不法行為ではないと言うことはですね

いえ、そうではなく債務不履行であり、不法行為でもあると理解してください(請求権競合)。立証責任の関係で、債務不履行構成で攻撃した方が患者側の勝訴を得やすいので債務不履行を軸にすることが多いだけです。不法行為構成にも、メリットがあるので、不法行為構成も併用するのが一般的かと思います。なかなか噛み砕いて説明しにくくて、むやみに難しい表現しかできず済みません。

○「医師がガイドライン等の教科書通りの治療に精通しておらず」、それによって「患者に不利益が生じた」としても、その患者に民事訴訟を起こされないかぎり、その責任は問われない、あるいは刑事訴訟はあり得ない、そういう理解でよろしいのでしょうか?

そんなことにはならないと思います。
ガイドライン等の教科書通りの治療に精通しない未熟な医師が、その未熟や不勉強の故に、患者の生命・健康に重大な損害を与えた場合は、医療過誤の典型であり、民事上の損害賠償の問題を生じるだけでなく、業務上過失致死傷という罪で刑事処罰を受けることもあります。
ガイドライン等の教科書通りの治療に精通した医師が、いわば応用編として患者を助けるために敢えて教科書やガイドラインを踏み越えたことをし、それでも悪い結果を避けられなかったとしても、非難できない領域があると考えるわけです。常識的な方法では救命できないと考えるときに、医師は自ら信じる非常の策を選択することも許されているのではないかと言いたかったのです。駆け出しの未熟者が基本をわきまえずにやったのと同日に論じるべきでない領域はあるのだろうと思います。
教科書を弁えない者は馬鹿ですが、ここぞという場面で教科書を踏み越えることができない者は不誠実な腰抜けなのではないでしょうか。そういう場合は医師は自らの信念にしたがって患者の救命のために最後まで可能性を試すように、「教科書」も求めていると思うのですが・・・。
患者や患者家族が訴えを提起したり、告訴状を提出しないと、民事刑事の裁判が始まりにくいという限りでは、正しいかもしれないですが・・・。ご質問の意図を取り違えていたら申し訳ありません。

■このQ&Aは、的場が、「bengofuji」のペンネームで「@nifty教えて広場」に回答した記事を、個人的にコレクションしているものです。また、質問部分については、長いすぎるものや質問者を特定する手がかりになりそうな記載は適宜短縮等しております。

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