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2012年7月22日 (日)

悩ましいハーグ条約

悩ましいハーグ条約

岡山弁護士会前会長 的場真介


国際結婚が破綻した夫婦間の子どもの扱いを定めた「国際的な子の奪取に関する条約(ハーグ条約)」について、1月26日の社説は「ハーグ条約 子どもの利益を考えたい」と訴えた。これにコメントしようと思ったが、あまりの悩ましさに筆が進まなかった。
国内の離婚事件でも主に母親による子の連れ去りは日常茶飯事である。これまで日本では「やったもん勝ち」であり、家庭裁判所でもそのことを特に犯罪視するようなことはなかった。離婚後は単独親権となることが当たり前とされ、母性優先ということで幼い子の場合であれば母親が単独親権者とされてきた。子を奪われまいと追いすがる父親を牽制するために、些細な暴力を強調して、夫の接近禁止や住居退去を地方裁判所が命令できる「 保護命令 」が発令されることもあった。血涙を流す父親の姿もたくさん見てきた。しかし、お腹を痛めた幼な子を母親から取り上げるような残酷なことはしにくいという考え方から、父親ががまんするのは仕方がないことと割りきってきた。
また、日本人夫から、外国人妻が子を母国に勝手に連れ帰ってしまったという相談も時々受けるようにもなった。
現在ハーグ条約加盟に向けた関連法の整備が進められようとしている。
国際結婚が破綻したため子供を連れて日本に帰った女性が、未成年者誘拐罪で国際指名手配されたり、外国の裁判所から5億円もの損害賠償を命じられたりという事件が取り上げられた。しっかりした議論がされてきたようには思えない。離婚を扱う弁護士の理解も進んでいない。
社説の「子供の利益を中心に」という主張には誰も反対できないのだが、何が子供の利益と考えるかは人それぞれである。
ただ、「子供は親の離婚を望まない。離婚後も両方の親と交流していくことが子供の利益になる。」という考え方が主流になり、離婚後も共同親権(監護権)を持つことが原則型になっていく。
これまで裁判所で離婚をした妻たちは、多くの場合、幼い子供の親権だけは問題なく独占できたし、元夫に子供を会わせることも月1回数時間だけがまんすればよかった。しかし、欧米諸国並みに年間100日程度の交流を保証するという流れになっていくとすれば、女性たちから嵐のような抗議を受けるのではないかと心配している。この女性たちの不満を押さえるために慰謝料等を高額化をすれば、日本の離婚裁判は様変わりするだろう。
この条約は国内離婚にも大きな変化を与えることは必至である。社会に重大な影響を与える制度なので、徹底した議論を尽くすことが必要である。
(山陽新聞平成24年7月27日付朝刊)


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