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2012年1月23日 (月)

山陽新聞「山陽新聞を読んで」【治安は良くなった?】

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 治安は良くなった?
 13日付総合面の紙面で、2011年の刑法犯認知件数が前年を下回り、9年連続で減少したという記事を見た。記事は正しいのだが、「治安は悪くなってるんじゃないの」と違和感を感じた読者も少なくなかったのではないか。
 体感治安という言葉がよく使われるようになった。「統計に表されたものではなく、人々が日常生活の中で漠然と感じる治安の善しあしに関する感覚」という意味だ。
 犯罪件数が減っているのに体感治安がちっともよくならないのはどうしてなのか。よく言われるのはマスコミ、特にテレビの報道ぶりが不安感をあおっているからということである。それも確かにあるかもしれないが、それだけではなかろう。
 最も犯罪を起こす世代は18歳までの若者なのだが、犯罪が減ったのは、少子化の影響で若者自体が減った上、若者自体が荒々しさを失ったからである。
 恐ろしいような荒々しい若者が減り、そして凶悪犯罪も減った。しかし荒々しい若者の存在は、他方で社会を前進させていく激しい精神の象徴(あくまで象徴的な意味であって女性がそうでないという意味ではない)でもあったし、命をなげうっても国や家族を守ってくれる頼もしい存在でもあったわけだが、そういう若者の存在感が希薄になっている。何かによって自分がしっかりと守られているという感覚に乏しい時代を生きているという感じがある。
 現在の日本は、終身雇用制度や昭和的な家庭制度が解体しつつあり、年金制度も怪しくなり、国民の多くがよるべない不安感を感じている。そのような不安感を体感治安の悪さと取り違えて認識しているのではないかという気がする。
 昭和30年代と今とどちらが治安が良かったかと尋ねると、昭和30年代の方が良かったと答えられる方が少なくない。昭和30年代は、高度成長期を迎えて将来への希望が社会にみなぎっていた時代であった。社会に「希望」がある時は、実際には犯罪が多発していても体感治安は良いのかもしれないと。
 ところで政府は、体感治安の悪化を理由に厳罰化を進めてきた。厳罰化は鎮痛剤と同じで、患者である国民の強い要望には応えるものだが、本当の社会の病根の治療には全然役立たないばかりか、根本治療の妨げにもなりかねない。また、厳罰化による痛みを受ける「犯罪を犯してしまった人々」もまたわれわれの社会の構成員だという視点も必要だ。
【山陽新聞平成24年1月22日朝刊に寄稿】

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