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2012年1月11日 (水)

資料解題「法曹人口政策に関する緊急提言 関連資料」【平成23年5月岡山弁護士会会報に寄稿】

私が、平成23年5月岡山弁護士会会報に寄稿した記事です。
法曹人口増加に苦悩する弁護士業界の分析と展望について私見を述べています。長文です。

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資料解題「法曹人口政策に関する緊急提言 関連資料」
的 場 真 介  
 
1,はじめに
日弁連から2011年(平成23年)3月に「法曹人口政策に関する緊急提言」が発表されたが、同時に「法曹人口政策に関する緊急提言 関連資料」という資料集が発表された。この資料集とてもわかりやすくまとめられているので、今回はこの資料を素材にして「法曹人口」についての私見を述べてみたい。

(1)弁護士大増員時代→資料【法曹三者の人口推移】を見ると、2000年(平
成12年)に約17000人だった弁護士人口が2010年(平成22年)には約29000人に増加している。なんと1万人以上増えている。それに引き換え裁判官・検察官の停滞ぶりは「なんじゃあ!」と叫びたくなるほどである。
 私が入会した1984年(昭和59年)岡山弁護士会の会員数は126人だった。20年かけて2006年(平成18年)12月には206人に増えた。20年以上かけて80人増えたことになる。しかし、それからわずか5年後の会員数は302人(平成23年3月31日現在)に達している。20年以上かかった増加数を5年で軽くこえたことになる。
 動物の世界では、環境がよくなって餌が増えたときに個体数が爆発的に増えるのは当然で、環境が悪く餌が減っているときに個体数を増やした種は破滅的な飢餓に襲われることになる。
経済の長期低迷が続いている日本において、弁護士数を増やせばどういう結果になるかということを、我々は身をもって体験しつつある。
(2)資料【司法試験合格者数の推移】を見ると、司法試験合格者数は2007年
(平成19年)以降年2100人前後で推移している。2002年(平成14年)3月の閣議決定では2010年(平成22年)以降3000人を合格させるはずだったが、現実の厳しさはそれを許していない。私(昭和年合格の36期)などの理解を超えた事態である。
(3)資料【二回試験不合格者数の推移】を見ると2006年(59期)以降は「
多目に合格させて容赦なく切り捨てる」路線に転換したことが読み取れる。私たち36期のころの二回試験不合格者数は0に近かったのであり、今から思うと「少ない合格者をもれなく大切に育ててもらえる」良い時代だったと思う。
(4)その結果、資料【修習期別弁護士数と登録年数別弁護士人口構成比】を一目
見れば明らかなように、老壮青のバランスが崩れ、異様な裾広がりの分布になっている。

(5)しかも、資料【一括登録時点での未登録者数の推移】を見ると、「ソクドク
」「ノキ弁」にもならずに弁護士社会の入り口で立ちすくんでしまう若者が新63期で1割以上、現行63期では実に2割以上発生していることがわかる。資料【弁護士未登録者推移(新司法試験合格者)】を見ると、今までのところは一括登録時点から4か月くらいで吸収しているものの、この先どうなっていくのかは予断を全く許さない。
見方によっては、弁護士業界が意外にがんばって多くの新人を吸収してきているとも言えなくもない。雇用側の吸収力が限界かという不安の声も常にあるが、「イソ弁3年で独立」というモデルで考えるならば、3年サイクルでイソ弁を送り出した多くの事務所が新人を受け入れるはずだから、新人の就職先は確保されるのではという期待というか願望もなくはない。しかし、実際にはそううまくはいかないだろう。独立に不安があるためか、イソ弁の定着志向が非常に強くなっている。雇用側も経営的にはリスクが大きい新人採用より長期雇用を増やす可能性がある。
【左図】の説明
平成23年以降の年間合格者数を、.
3,000人とした場合、法曹三者の総人口は平成29年に5万人に達し、平成65年以降に12万7761人で均衡する。
. 2,000人とした場合、平成34年に5万人に達し、平成61年に8万6123人に達し、平成65年以降8万4761人で均衡する。
. 1,500人とした場合、平成39年に5万人に達し、平成61年に最大値6万6623人に達した後、平成65年以降6万3261人で均衡する。
. 1,000人とした場合、平成54年に最大値4万8463人に達し、平成65年以後4万1761人で均衡する。

(6)資料【年間合格者数と法曹三者の総人口】を見ると、2011年(平成23
年)以降の合格者数が現状の2000人程度で推移した場合、法曹人口は、2022年(平成34年)に5万人に達し、2050年(平成61年)に86000人に達し、2053年(平成65年)に均衡するというシュミレーションになっている。全国の弁護士人口の大体1パーセントが岡山弁護士会に所属しているとすると、2053年(平成65年)のわが会の人口は860人くらいに膨れあがっていても不思議はない。

【左図】の説明
現在の総人口(1億2715万人)のもとで法曹人口5万人とした場合の対人口比率は、10万人当たり39人である。日本の総人口は減少すると予測されるところ、10万人当たり40人の水準に到達するのは、
. 3,000人の場合は平成29年で、最終的に人口10万人当たり147人で均衡する。
. 2,000人の場合は平成33年で、最終的に人口10万人当たり98人で均衡する。
. 1,500人の場合は平成37年で、最終的に人口10万人当たり73人で均衡する。
. 1,000人の場合は平成45年で、最終的に人口10万人当たり48人で均衡する。

(7)さて、人口シュミレーションはわかった。資料【年間合格者数と法曹三者の
総人口】のもう一つの図を見ると。問題は、2000人で市民人口10万人あたりの法曹人口が40人(現在は23人)に達する2021年(平成33年)頃には、私たち弁護士の暮らし向きはどうなっているのか。また、2048年(平成60年)頃に弁護士人口が均衡した段階では市民人口10万人あたり98人くらいに増えているという計算になるらしい。
 残念ながら私の想像力を超えている。10年後の2021年(平成33年)に弁護士1人あたりの市民人口が2分の1になったくらいでは、まだ行けそうだが、40年後に市民人口が4分の1で均衡したころにはどうなんだろう。もっとも、私がまだ生きて弁護士をやっているとも思えないが・・・。単純計算だけで考えると息苦しくなる。

(8)宇都宮日弁連会長がご自身の選挙の際に表明した年1500人だと、依然と
して漸増路線ではあるが、これはかなり楽になるような気がする。
 また、年1000人でも5万人近くまでは増えていくが、国民から弁護士業界が身を削って司法改革に努力したという評価を得られるか疑問である。

(9)資料【公認会計士の合格者の推移】を見ると、弁護士業界でも激増から年1
500人くらいの漸増にペースダウンすることもあながちわがままな主張ではなかろう。
 もっとも、法科大学院に学んでいる学生諸君に与えるショックにも十分に目配りして、段階的にペースダウンすることが大切なように思う。法科大学院の総定員を先にしぼって、これと連動して司法試験合格者を徐々にしぼり、司法試験合格率の急減は慎重に回避する工夫が必要だろう。
 そして、抜本的には、法学部、法科大学院の2階建システムを含めたところから、見直さなければいけないように思われる。法曹養成システムの運営を文科省に委ね続けることもどうなのだろう。韓国は、我が国のロースクール制度の失敗を横目で見ながら、ロースクールに一本化する賢明な選択をしている。

(10)弁護士増員が社会にもたらす恩恵というものから目をそらして、ただ弁護
士の窮状ばかりを声高に叫んでみても、社会からは業界エゴと切り捨てられることは明らかである。
 適正な法曹人口とはなんぞや。禅問答のような議論が続いている。
 世論をどのように説得していくか。我々は弁護士なのだから、そこのところは上手くやらなければいけない。

2,弁護士という職業の不人気
(1)昨年の給費制延長の際の付帯決議でフォーラムを立ち上げて法曹人口、法曹
養成制度、給費制問題を総合的に議論することが決まっている。この原稿が日の目を見る頃にはフォーラムの審議が始まっているだろう。

(2)弁護士会としては、フォーラムを通じて、人口増のペースダウンを訴えてい
くことになるが、目先の困難に目を奪われて、司法の量的拡充を含んだ司法改革の旗を下ろすべきではない。司法改革はこの国の発展にとって必要な改革であり、法曹の増員も司法のブロードバンド化という形で国民に恩恵をもたらすものであろう。司法過疎の解消、被疑者国選の拡大は法曹の増員という要因によって実現できたことも明らかである。したがって、弁護士数を増やしていくという基本路線自体の放棄はすべきでないことになる。
 さりとて、現在多くの弁護士が味わっている経営基盤の急速な縮小、若手の就職難等について、「司法の成長に当然に伴う成長痛」と呑気に構えていることもできない。

(3)弁護士大増員を決定した人たちの頭の中には、司法試験合格者数を大増員す
る結果、司法試験合格者全員が弁護士になれない事態が起こったり、既存業者が既得権を奪われる結果になることは十分に想定していたことである。新規参入者を阻んでいた障壁を開放するすることで競争と淘汰が起こり、競争によって質の高い弁護士サービスを安価に利用することもできるようになり、そのことは国民に恩恵をもたらすはずだという自由競争万能の思想があった。しかし、我々の運命のすべてをそんな思い付きに委ねることはできない。
 司法試験合格者を更に年9000人に増やせといった極端な議論もあるが、そういう議論は不毛な荒廃しかもたらさないことは明らかである。年9000人の司法試験合格者が出して、競争に破れ落伍者としてふるい落とされていく若者の割合が極端に多くなると、競争が本来もっていた生産的な側面が損なわれる。効果的な競争が成立する条件としては、その競争に有能の人材が大量に誘因され参加することが必要である。そのためには、競争の勝者には相応のメリットが約束されることが必要なのである。ところが、いったん職業としての魅力が失われると、そもそも有能な人材が集まらなくなり、意味のある競争が成立する条件自体がなくなる。
現在進行している事態は、見直され修正していかないといけない。

(4)司法試験の合格者数は増やされ門戸が拡がったように見えるが、司法試験参
加資格をロースクール卒業生に限定したことが新たな参入障壁になってしまった、ロースクールを法学部と併存させることで、司法試験の入り口までに過大な費用・時間の負担を強いる結果になっている。そんな苦労までして弁護士になっても、たちまち過当競争にさらされ落伍者となる大きなリスクがつきまとうとなれば、少し目端が利く人はそんな危ない道は敬遠するだろう。このように苦労に見合う将来が約束されないことで、弁護士という職業の魅力が急速に色褪せている。

3,法曹人口政策会議が解明すべき課題
(1)日弁連人口政策会議は、平成22年3月5日答申書において、「弁護士人口
のあり方を市場原理に委ねる路線」と決別し、「適正数を養成する路線」に転換した。
しかし、「司法の需要に見合う適正数」を数学的に算出することなど無理であって、また、仮にある時点で適正数を発見できたとしても、その数は諸条件の変化によって変動してしまうため、別の時点ではまた別の適正数を探求しなければならない。
 法曹人口を決定する会議が、長い期間をかけて合格者を増やしたり減らしたりの試行錯誤を繰り返して均衡点をさぐるしかない。
 法曹人口政策会議の課題は、適正数を議論して決定することでなく。適正数を決定する組織と判断の枠組み・手順を決めて提言することだろう。

(2)均衡点を探るために有用な指標は、次の①~③が考えられる。
①弁護士業界の生理的な再生産能力を極端に超えないこと(一括登録時に登録ができない者の比率が許容限度内にとどまること。許容限度は数パーセント程度ではないか。1割を超えるのは危険信号だろう。)
②実務が要求する水準に達しない者が合格してしまう確率が許容限度内であること(2回試験不合格者の割合等が許容限度内にとどまること。)
③若者の新規参入意欲を損なわない状況が存在すること(ロースクール志願者数、司法試験志願者数が安定しているか増加傾向にあること。大幅に減少するような状態は明らかな危険信号。)

(3)現在は年2100人で推移しているが、①と③の指標で危険信号が、②でも
直ちに危険信号と断定できないまでも多数の不合格者が出ている。したがって、年2100人は現時点で想定されるであろう「適正数」をかなり上回っていると考えられる。

4,法曹養成制度について
 医者とか弁護士の業務は、人に非常に危険な行為を加えるものであるから、高い技術水準と倫理性を備えることが要求される。不勉強な弁護士、倫理観のない弁護士は、役に立たないばかりでなく、国民にとって極めて危険である。
 司法試験という資格試験によって新規参入当初の技術水準をある程度そろえ、競争によって技術水準の維持を促すことはできる。
 しかし、高い倫理性を保持させることを競争によって実現することはなかなか困難である。われわれは、倫理性などかなぐり捨てた者が経済的な勝者となる例が少なくないことを知っている。拝金主義が横行することを許すことは、利用者である国民にとって不幸である。
 この倫理性保持の部分はわが国では弁護士会という職能団体が担ってきた。もちろん弁護士の統制を国家機関の手に委ねる制度設計もあるが、時として国家権力と対峙しても国民の権利擁護を守ることを要請される弁護士の統制を国家の手から切り離すという制度設計の方が優れている。
 我々の弁護士ギルドでは、伝統的に「イソ弁」などと呼ばれる徒弟制度に組み込まれることを前提として若手の教育訓練が行われてきた。ところが、「ソクドク」「ノキ弁」として入ってくる新人たちはそもそも徒弟制度に組み込まれないため、この部分では伝統的な後継者養成システムが機能不全に陥っていることが容易に想定できる。時代にあった新しい補完的教育訓練システムを立ち上げる必要がある。

5,当面の目標について
 3000人の閣議決定を撤回させ、かつての三者申し合わせの1000~1500人くらいまでペースダウンすることが当面の獲得目標になるのだろう。
 「弁護士人口のあり方を市場原理に委ねる路線」を否定し、「適正数を養成する路線」への回帰を求めることになる。ただ、昔と全く同じ路線に戻るのではなく競争の効用を期待できる着実な増加政策を組み込んだ適正数養成ということになる。
 また、「弁護士人口のあり方を市場原理に委ねる路線」は、司法修習生の給費制廃止に向かいやすいから、その路線を放棄させないことには給費制維持の闘いの展望は開けないと思われる。

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