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2011年12月30日 (金)

検察審査会の機関誌への寄稿

検察審査会が大陪審へと更に発展することを期待する

岡山弁護士会
会長  的  場  真  介

 刑事訴訟法等の一部を改正する法律(平成十六年法律第六十二号)により,検
察審査会において「同一の事件について起訴相当と2回議決された場合には必ず
起訴される」こととなり、法的拘束力を持つことになった(2009年(平成2
1年)5月21日から施行)。司法制度改革の一環として検察審査会が権限を拡
張され、検察官の起訴権限の不行使に民意を反映させる仕組みが一層強化された
ものである。
 ところで、検察官の権限行使をチェックする仕組みには、濫用的起訴に対する
チェック(国家刑罰権に対してはブレーキとして働く)と起訴便宜主義を濫用し
た不起訴のチェック(国家刑罰権に対してはアクセルとして働く)の2つがあり
うる。

 検察審査会の役割は残念ながら後者のアクセル役だけである。諸外国では前者
のブレーキ役に関する制度が多い。大陪審(一般市民から選ばれた陪審員で構成
される、犯罪を起訴するか否かを決定する機関をいう。)や予審(刑事訴訟にお
ける正式の裁判に先立って、当該案件を起訴するに足りる証拠があるか否かを判
断する手続)といった制度がそれである。
 日本には、大陪審や予審(旧刑訴法にはあった)といった制度はない。もしか
すると、戦後の日本の検察官には旧刑訴法の予審判事の役割を期待されていたの
かもしれない。しかし、そうであるならば、予審判事の役割の検察官が不起訴に
したものを検察審査会がさらに起訴を求めるという制度設計はどうなんだろう。
 濫用的起訴から国民を速やかに救済する制度として公訴権濫用論が編み出され
たが、最高裁はこれを骨抜きにした。(最高裁第一小法廷昭和55年12月17
日決定刑集34巻7号672頁は、「検察官の裁量権の逸脱が公訴の提起を無効
ならしめる場合のありうることを否定することはできないが、それはたとえば公
訴の提起自体が職務犯罪を構成するような極限的な場合にかぎられるものという
べきである。」との判断した。)
 戦後の1948年(昭和23年)に検察審査会は生まれたわけだが、当時のG
HQは大陪審制度を提案したが、日本政府は、民意を反映させる制度として検察
審査会を作ることで大陪審制度ができるのを避けたらしい。検察官の権限行使を
市民の意思で制約しようという共通点はあるものの、国家刑罰権の発動について、
アクセルとして働く検察審査会制度を作ることが、どうしてブレーキとして働く
大陪審の代替になるのかわからないが、歴史的にはそういうう経緯があったらし
い。
 いずれにしても検察審査会は多くの関係者の真摯な努力によって、日本の刑事
司法制度の中で成果をあげてきたし、昨今の被害者保護の高まりによってその役
割はさらに重要になっていくと思われる。その一方で「検察審査会が起訴相当議
決をし、それに対して検察官が不起訴にした場合でも、検察審査会が再度起訴相
当と判断した場合には起訴される」ということになると,検察審査会の審理のあ
り方にこれまで以上の慎重さが求められることになったといってよい。弁護士会
としても検察審査会の審理のあり方を注意深く見守る必要が増大したのは確実で
ある。
 また、検察官の起訴権の適正をチェックする仕組みとしてブレーキを欠いてい
る制度がこのままでいいのかという議論は今後も積み重ねられていかなければな
らないと思う。個々の市民は国家刑罰権の脅威にさらされるわけだから、本来は
ブレーキを充実させることがより重要なんだろうと思われる。
 司法制度改革で司法に民意を取り入れる目玉として実現したのが、裁判員制度
と検察審査会の権限強化であったわけだが、それがなぜアクセルの強化だけなの
かはにわかに理解しがたいことである。
 検察官の濫用的起訴の脅威から国民を速やかに救う機構を欠いた制度の中では、
検察官の良識を信頼する以外に方法がない訳だが、それが制度の建て付けとして
どうなのか。今回のアクセルの充実強化が、よけいブレーキ欠落の危うさを際立
たせる結果になったようにも思える。やはり,立法論としては,検察審査会は,
大陪審制度へと発展していくべきものかもしれない。

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